車のオーバーヒートは、運転中に遭遇する可能性のある最も厄介で危険なトラブルの一つです。しかし、そのメカニズムや原因、対処法について深く理解しているドライバーは意外と少ないかもしれません。このコラムでは、車のオーバーヒートについて、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
エンジンのオーバーヒートとは?
オーバーヒートとは、車のエンジンが許容範囲を超えて高温になり、その結果、正常な機能を維持できなくなる状態を指します。人間の体で例えるなら、「高熱」を出して体が動かなくなるようなものです。
では、なぜエンジンは熱を持つのでしょうか?
車のエンジンは、ガソリンなどの燃料を燃焼させることで動力を動かしています。この「燃焼」というプロセスは、同時に大量の熱を発生させます。想像してみてください。小さな密閉空間の中で、常に爆発が起きているようなものですから、非常に高温になるのは当然です。
この熱を効率的に冷やし、エンジンの適正な温度を保つために、車には「冷却システム」という重要な仕組みが備わっています。冷却システムは、主に以下の要素で構成されています。
- 冷却水(クーラント):エンジン内部を循環し、熱を吸収する液体です。一般的には緑色やピンク色をしています。不凍液としても機能するため、「LLC(ロングライフクーラント)」とも呼ばれます。
- ラジエーター:冷却水が吸収した熱を空気中に放熱するための部品です。エンジンの前に位置し、格子状のフィンがたくさん並んでいます。
- ウォーターポンプ:冷却水をエンジン内部からラジエーターへと循環させるポンプです。冷却システムの「心臓」とも言える重要な部品です。
- サーモスタット:冷却水の温度を感知し、エンジンの最適な温度を保つために、冷却水の流れを調整する弁のような役割をします。エンジンが冷えている間はラジエーターへの冷却水の循環を止め、ラジエーターが早く温まるようにし、適温となると循環を開始します。
- 冷却ファン:ラジエーターに風を送り込み、放熱を助けるファンです。渋滞時など、走行風が当たらない状況で特に活躍します。
これらの部品が連携して機能することで、エンジンは常に適切な温度に保たれています。しかし、何らかの原因でこの冷却システムが正常に機能しなくなると、熱がうまく逃げなくなり、エンジンはどんどん温度を上げていき、最終的にオーバーヒートしてしまうのです。
オーバーヒートの原因
オーバーヒートは、複数の要因が絡み合って発生することがほとんどです。ここでは、特に多い原因をいくつかご紹介しましょう。
冷却水の不足:最も身近なトラブル
冷却水の量が不足していることが、オーバーヒートの最も一般的な原因です。冷却水は密閉されたシステムの中を循環していますが、経年劣化や部品の破損などにより、少しずつ蒸発したり、漏れだしたりすることがあります。
冷却水の漏れ
ラジエーター本体、ホース、ウォーターポンプなど、冷却システムを構成する様々な部品から冷却水が漏れ出すことがあります。小さな亀裂や劣化でも、徐々に冷却水は失われていきます。駐車場に緑色やピンク色の液体が漏れているのを見つけたら、冷却水漏れのサインかもしれません。
冷却水の劣化
冷却水は、長時間使用するとその性能が低下します。防錆効果や消泡効果が失われ、冷却効果が悪くなったり、内部に錆が発生して冷却水の流れを阻害したりすることもあります。定期的な交換が必要です。
冷却水のエア噛み
冷却システム内部に空気が入り込んでしまうと、冷却水が正常に循環しなくなり、冷却効率が低下します。
ラジエーターの不調:熱を逃がせない!
ラジエーターは、冷却水の熱を空気中に放熱する重要な役割を担っています。ここが詰まったり、損傷したりすると、熱がうまく逃げなくなり、オーバーヒートを引き起こします。
ラジエーターの詰まり
長年の使用によって、ラジエーター内部に錆や異物が蓄積し、冷却水の通り道が狭くなってしまうことがあります。また、ラジエーターの外側(フィン部分)にゴミや虫、枯れ葉などが詰まることでも、放熱効率が著しく低下します。
ラジエーターの破損
飛び石などでラジエーターのフィンが潰れたり、亀裂が入ったりすると、冷却水漏れの原因になるだけでなく、放熱面積が減少し、冷却効率が低下します。
冷却ファンの故障:風がなければ冷えない!
渋滞時やアイドリング中など、走行風が当たらない状況では、冷却ファンがラジエーターに強制的に風を送り込むことで冷却を助けます。この冷却ファンが故障すると、特に低速で走行時や停止時にオーバーヒートしやすくなります。
モーターの故障
冷却ファンを動かすモーターが故障すると、ファンが回らなくなります。
配線の断線
配線が断線することで、ファンに電力が供給されなくなり、作動しなくなることがあります。
ウォーターポンプの故障:心臓が止まる!
ウォーターポンプは、冷却水を循環させるための「心臓」のような存在です。ここが故障すると、冷却水が流れなくなり、エンジン内部に熱がこもり続けてしまいます。
ポンプ自体の故障
内部の羽根が損傷したり、ベアリングが摩耗したりすることで、ポンプが正常に機能しなくなることがあります。
ベルトの緩み・切れ
ウォーターポンプはエンジンの回転力を利用して動いていることが多いため、それを伝えるベルトが緩んだり切れたりすると、ポンプが動かなくなります。
サーモスタットの故障:温度調整ができない!
サーモスタットは、冷却水の温度を適切に保つための温度調節弁です。これが故障すると、以下のような問題が発生します。
弁が開きっぱなし
エンジンが十分に温まる前に冷却水が常に循環してしまうため、燃費が悪くなったり、暖房の効きが悪くなったりします。この状態ではオーバーヒートのリスクは低いですが、エンジンの適正温度にならないことで別の問題を引き起こす可能性があります。
弁が閉まりっぱなし
最も危険なのがこの状態です。冷却水がラジエーターに流れなくなり、エンジン内部に熱がこもり続けて、一気にオーバーヒートしてしまいます。
その他の原因:見落としがちな要因
エンジンオイルの劣化・不足
エンジンオイルも冷却の一部を担っています。オイルが劣化したり量が不足したりすると、エンジンの摩擦熱が増加し、冷却システムの負担が増大します。
エアコンの酷使
夏場にエアコンを長時間強く作動させると、コンプレッサーに負荷がかかり、エンジン全体の温度が上がりやすくなります。特に古い車や冷却システムに不具合がある車では、この影響が顕著に出ることがあります。
エンジンの過負荷
急勾配の坂道を走行したり、重い荷物を積んで走行したりするなど、エンジンに過度な負荷がかかる状況では、発生する熱量が増加し、オーバーヒートしやすくなります。
危険なサイン!オーバーヒートの前兆
オーバーヒートは突然起こるように見えますが、実は多くの場合、その前にいくつかの「警告サイン」を発しています。これらのサインを見逃さず、早期に対応することが、大きなトラブルを防ぐ鍵となります。
水温計が異常を示す
最もわかりやすいサインは、メーターパネル内の「水温計」の動きです。「C(cool)」と「H(hot)」の表記があり、異常がなければ、水温計は「C」と「H」の中間あたりを示しています。これがH(hot)の方向へ上昇し始めたり、赤色の警告灯が点灯したりしたら、すぐに異常を察知する必要があります。
- Hの文字や赤いランプが点灯:これはもう緊急事態です。すぐに安全な場所に停車し、エンジンを停止してください。
- 常に中央よりも高い位置を指す:警告灯が点灯していなくても、普段よりも水温計の針が高い位置を指している場合は、冷却システムに何らかの問題が発生している可能性があります。
ボンネットからの白い煙・水蒸気
これはもう、完全にオーバーヒートしている状態です。エンジンルームから白い煙(実際は水蒸気)がモクモクと立ち上がっているのを見たら、すぐに安全な場所に停車し、エンジンを停止してください。決してボンネットを開けようとしないでください。高温の蒸気が噴き出し、やけどを負う危険性があります。
焦げ臭い匂い
ゴムやプラスチックが焼けるような焦げ臭い匂いが車内に漂ってきたら、注意が必要です。これは、エンジンが高温になり、周囲の部品が熱で溶け始めているサインかもしれません。
エンジンのパワーダウン・異音
エンジンが異常に高温になると、本来の性能を発揮できなくなり、パワーが落ちたり、加速が悪くなったりすることがあります。また、「キンキン」という金属音や「ガラガラ」という異音が発生することもあります。これらは、エンジン内部の部品が熱で膨張し、正常なクリアランスが保てなくなっているサインです。
暖房が効かなくなる
冷却水は、エンジンの熱を利用して暖房の熱源としても使われています。もし、水温計がHを指しているのに、なぜか暖房が全く効かなくなったら、それは冷却水が不足している、あるいは全く循環していない可能性が高いです。冷却水がヒーターコア(空気を暖める構成部品)まで到達せず、熱を供給できていない状態です。
エンジンルームから異臭(甘い匂い)
冷却水には、独特な甘い匂いがあります。もし、車内や車の周囲からこの甘い匂いが漂ってきたら、冷却水が漏れている可能性があります。冷却水が熱せられて蒸発し、匂いとして感じられるのです。
オーバーヒートが発生したときの対処法
これらのサインに気づかず、万が一オーバーヒートしてしまった場合は、パニックにならず、冷静に対処することが非常に重要です。誤った対処は、さらに状況を悪化させたり、大やけどなどの危険を招いたりする可能性があります。
まずは安全な場所に停車
- 路肩へ移動:まずは、周囲の交通状況に注意しながら、安全な路肩や駐車場へゆっくりと車を移動させましょう。ハザードランプを点灯させ、後続車に異常を知らせてください。
- エンジン停止:安全な場所に停車したら、すぐにエンジンを停止します。エンジンを動かし続けると、更に熱がこもり、申告なダメージを与えることになります。
絶対にボンネットを開けない!
- 高温の水蒸気:オーバーヒートしたエンジンルームは、非常に高温になっています。冷却水が沸騰し、上記として噴き出している可能性も高く、安易にボンネットを開けると、高温の蒸気や熱湯が噴き出し、大やけどを負う危険性があります。
- 冷却まで待つ:エンジンを停止し、最低でも30分~1時間程度は放置して、エンジンや冷却水が冷えるのを待ちましょう。
応急処置は慎重に
- 冷却水の補充(応急処置):十分に冷えたことを確認したら、冷却水のリザーブタンク(透明なタンク)の液量を確認します。もし空っぽに近い状態であれば、応急処置として水を補充することも可能です。ただし、水はあくまで一時的なものであり、必ずクーラント(冷却水)を補充する必要があります。また、熱い状態のエンジンに水を補充すると、急激な温度変化でエンジンにダメージを与える可能性があるので、必ず冷えてから行いましょう。(※注意!:ラジエーターキャップをいきなり開けないでください。ここも高温・高圧になっている可能性があります。リザーブタンクで確認・補充するようにしましょう。)
- エアコンを切り、暖房を最大に:走行中にオーバーヒートの兆候が見られた場合、エアコンを切り、暖房を最大にして窓を開けるという応急処置があります。これは、エンジンの熱を暖房として車内に放出することで、一時的にエンジンの熱を下げる効果があるためです。しかし、これはあくまでも「一時的な処置」であり、根本的な解決にはなりません。すぐに安全な場所に停車し、エンジンを停止することが最優先です。
ロードサービスを呼ぶ
応急処置で一時的に症状が落ち着いたとしても、根本的な原因が解決されたわけではありません。自力で走行を続けると、再びオーバーヒートする可能性が高いです。無理に走行しようとせず、速やかにJAFや保険会社のロードサービスに連絡し、専門家に見てもらうのが賢明です。
オーバーヒートを防ぐには
オーバーヒートを予防するには、定期的なメンテナンスと、日頃から車に異常がないか確認を行なうことが大切です。
まず、普段から運転時に水温計のチェックを行うようにしましょう。水温が多少高くなったというような初期段階で対処できれば、エンジンへのダメージを軽く抑えられる可能性があります。また、冷却水の水量をチェックして漏れがないか、エンジンオイルも汚れや異物の混入がないか確認しましょう。冷却水は蒸発により量が減っていくので、定期的にメンテナンスし、補充する必要があります。気温が高く、遠出する機会が多くなる夏場は特に注意が必要です。長距離運転をする際は、こまめに休憩をとることも心がけましょう。
まとめ
車のオーバーヒートは、決して他人事ではありません。しかし、そのメカニズムを理解し、日頃からメンテナンスを行い、異常のサインに注意を払うことで、ほとんどの場合、未然に防ぐことができます。
万が一、オーバーヒートの兆候が現れたり、実際にオーバーヒートしてしまったりした場合は、パニックにならず、冷静に安全な場所に停車し、適切な対処を行うことが何よりも重要です。決して無理な走行を続けず、プロの助けを借りることをためらわないでください。
あなたの愛車が常に最高のコンディションを保ち、安全で快適なカーライフを送れるよう、この記事が一助となれば幸いです。車の声に耳を傾け、適切なケアを施して、長く安全なカーライフを楽しみましょう!
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